このテーマのゴール
使う側から、作る側の目線へ — Webサービスの中身が見えるようになる これから作るのは「サイト」ではなく「サービス」です。このテーマでは、サービスを構成するたった3つの要素を理解し、身近なサービスを作る側の視点で観察できるようになることを目指します。今日はまだ開発環境すら使いません。頭とブラウザだけのテーマです。
「Webページ」と「Webサービス」の違いを説明できます。データが動くかどうか、それが分かれ目です。 画面(フロントエンド)・処理(サーバー)・データ(データベース)。この3語でサービスの中身を語れます。 身近なサービスの画面から「裏で何が起きているか」を予想し、AIに確認して確かめる型を身につけます。
🎯 このコースの「走る例」 — 総務部の備品申請
あなたは総務部の所属です。備品の申請は今、紙・メール・口頭でバラバラ。総務担当は月末に各所からの連絡を手集計し、発注リスト作成に半日かかっています。このコースでは、この課題を申請フォーム+申請一覧+集計 を持つ小さなWebサービスで解決します。今講座では、このサービスを3要素に分解するところまでです。
このテーマの流れ
P テーマ 身につけること P3〜5 サービスの正体とクリックの裏側 Webページとの違い、いいねの6ステップと3者の分担 P6〜8 3要素と観察する練習 画面・処理・データの役割、解剖手順とワークシート P9〜10 開発の流れと走る例の分解 5フェーズ、人間とAIの分担、備品申請の3要素分解 P11〜12 AIへの聞き方とまとめ 聞き方2つの型とNG→OK、チェックリスト、この先の持ち物
WebページとWebサービスは何が違うのか
どちらもブラウザで見るもの、ですが、中身の動き方 が決定的に違います。このコースで作るのは後者です。
📄 Webページ
見た目が主役 の電子のチラシ。会社紹介や商品説明など、見せるだけ のもの。閲覧者が何をしても中身は変わらない(例: 会社の採用ページ)。
⚙️ Webサービス
人の仕事が動く 仕組み。入力すると保存され、他の人がその結果を見られる。データが続きけて積み上がる点がチラシと違う(例: 備品申請フォーム)。
両者の違いを1つの表で比較する
比較軸 📄 Webページ ⚙️ Webサービス 中身の主役 見た目(文章・画像) データ(申請・記録・集計) 閲覧者ができること 読む・見る・リンクをたどる 入力する・送信する・結果を見る 放置したとき 古くなるだけ データが積み上がり、業務の実態記録になる 壊れ方の典型 リンク切れ 保存できない・集計が合わない 業務での例 社内報、マニュアル掲載ページ 備品申請、経費精算、勤怠入力
Webサービスとは「誰かの課題を、続きけて動く形で解くもの」 です。一度作って終わりではなく、使うたびにデータが積み上がり、業務の実態を記録していく。この違いがあるから、作る難しさも価値も一段上がります。本コースで扱うのは常にこちらです。
「いいね」を押したとき何が起きるか
社内SNSでも評価ツールでも、「いいね」を押す という一瞬の操作の裏で、3者の間でやり取りが動いています。この流れはどのWebサービスでもほぼ同じ形です。
画面上のボタンがクリックを検知します。ここまでは画面(ブラウザ) の仕事。指先の操作を、機械への合図に変える瞬間です。 「この投稿にいいねが押されました」という依頼(リクエスト) をサーバーへ送信します。宅配便の受付に出す伝票のようなものです。 裏方のプログラムが依頼内容を確認します。「誰が・どの投稿に」押したのかを解釈し、次の作業を決めるのはこの部分です。 いいねの事実を1件保存します。ここで初めて、明日も明後日も残る記録 になります。画面を閉じても消えません。 処理が終わった旨の返事(レスポンス) を画面へ返します。「受け付けました、現在の合計はこれです」という報告です。 受け取った返事でボタンの数字を1増やして表示します。見た目が変わるのは最後の一瞬。一連の動きの完了です。
この流れの登場人物は3者だけ
🖥 画面(ブラウザ)
利用者の操作を受け付け、依頼を送り、返事を表示する。1〜2と6を担当。
⚙️ サーバー
依頼を受け取り、ルールに従って処理し、返事を返す裏方。3と5を担当。
🗄 データベース
処理の結果を記録として残し続ける棚。4を担当。 次のページで詳しく扱います。
押さえておく3語
用語 意味 リクエスト 画面 → サーバーへの「依頼」 レスポンス サーバー → 画面への「返事」 データベース 依頼の結果を残す「記録の棚」
💡 電話での受付に例えると
リクエストは「受付電話」、サーバーの処理は「担当者の作業」、データベースは「台帳への記入」、レスポンスは「折り返しの返事」。依頼 → 処理 → 記録 → 返事 の流れは、電話受付の仕事と同じ構造です。
この流れは、どのサービスでも同じ形で起きている
日常の操作 裏で走る処理の例 データベースに残る記録 経費精算で「申請」を押す 上限チェック→上司へ承認回し 申請明細と承認履歴 勤怠システムで「出勤打刻」 打刻時刻の記録と遅刻判定 日ごとの勤怠実績 問い合わせフォームで「送信」 入力チェック→受付番号の発行 問い合わせ履歴と対応状況
1回のクリックの裏では 「依頼 → 処理 → 記録 → 返事 → 表示」 が0.数秒で走っています。この型は備品申請でも経費精算でも同じ。動きの型を1つ知れば、すべてのサービスの動きが読める ようになります。
スマホアプリでも構図は同じです。アプリの中に「画面」があり、ボタンを押すと「サーバー」へ依頼が飛び、記録がデータベースに残ります。ブラウザかアプリかの違いだけで、3者の分担は変わらない — だからこのテーマで学ぶ型は、社内のWebサービスにも業務アプリにもそのまま使えます。
サービスを構成する3要素
どんなに大きなサービスでも、構成要素はこの3つに分解できます。これから先の講座で設計・実装を進めるときも、常にこの3つで考えます。
🖥
画面(フロントエンド)
利用者が見て、触る部分。フォーム・ボタン・一覧表。入力の受付と結果の表示 を担う。
⚙️
処理(サーバー)
依頼を受けて仕事をする裏方。判定・計算・集計・データへの橋渡し。業務のルール がここに書かれる。
🗄
データ(データベース)
記録を残す棚。申請の履歴・利用者の情報・集計の元。ここに積もったものが業務の実態 になる。
支店に例えると、3要素は「窓口・裏方・金庫」
要素 支店での役割 備品申請での役割 壊れたら起きること 🖥 画面 受付カウンター。お客さんが対面で話す場所 申請フォーム・申請一覧・集計表の見た目 ボタンを押せない、入力できない ⚙️ 処理 裏方担当。書類を審査し、伝票を切り、棚へしまう 入力チェック、状況の更新、月末の個数合計 申請しても反映されない、集計が合わない 🗄 データ 書類庫。過去の伝票がすべて残る棚 申請の記録(日付・品名・個数・状況) 昨日の申請が消える、履歴がたどれない
3要素は独立していて、連携して動く。画面が立っても処理がなければ申請は残らない。処理があってもデータがなければ翌月には消える。どれか1つが欠けると「続きけて動く仕組み」にならない — これがWebページとの違いの正体です。
身近なサービスを「解剖」する練習
設計の材料は、すでに動いているサービスから採る ものです。ここでは、日頃使っているサービスを3要素で読み解く手順を身につけます。
STEP 1 — 画面を数える
そのサービスにいくつの画面があるか を数えます。一覧・詳細・入力・履歴。画面の数がわかると、サービスの輪郭が見えます。
STEP 2 — 入力と表示を区別
各画面のうち、ユーザーが入力するもの と参照されるだけのもの を分けます。入力がある画面が、データの入り口です。
STEP 3 — 記録を予想する
この操作の裏で何が保存されているはずか を予想します。外れたらAIに聞いて確かめる。これが観察の完成形です。
観察チェックリスト — 好きな社内システムに当てはめる
観点 チェックする問い 経費精算システムでの答えの例 画面・表示 画面はいくつあるか? 入力せず見るだけの画面はどれか? 申請入力、申請一覧、承認、精算結果の4画面(一覧と結果は参照専用) 入力 ユーザーが入力する項目は何か? 日付、金額、科目、摘要、証憑ファイル 処理 裏で動いているルールは何か? 上限チェック、上司への承認回し、月次の合計 データ 保存されている記録は何か? 申請1件ごとの明細、承認履歴、確定済み実績
見落とさないコツ — 挙動の違いに注目する
🔄 更新してみる
再読み込みしても同じ内容が保たれるなら、それはデータとして保存されている証拠。
📱 別端末で開く
別の端末で同じ記録が見えるなら、共有されているデータの範囲 がわかる。
🕘 履歴をたどる
履歴が遡れる範囲=データが積もる範囲。未来の集計の材料になる。
📝 走る例 — 今月中にやること
会社で使っているシステムを1つ選び、下のワークシートを埋めてみてください(紙のメモに写しても構いません)。この先の観察演習(04)や企画の講座で、この埋まったシートがそのまま設計の材料 になります。
観察ワークシート — 埋めればこの先の演習の材料になる
観察するシステム (システム名を書く) ① 画面はいくつあるか (例: 入力画面、一覧画面、承認画面…) ② 入力する項目は何か (例: 日付、金額、添付ファイル…) ③ 裏で動いていそうなルール (例: 上限チェック、承認の回し方…) ④ 保存されていそうな記録 (例: 申請の明細、承認履歴…) ⑤ 自分の予想(確かめたいこと) (例: 月次で締め処理がある? と予想)
観察のゴールは「操作を覚えること」ではなく、「保存されている記録の形を言い当てること」 です。予想が当たるほどこの先の企画が速くなり、外れてもAIに聞いて裏取りすれば知識になります。ワークシートの⑤が特に重要 — 予想を書いてからAIに確かめる のが、このコースの基本の型です。
サービスが生まれるまでの流れと、AIの入りどころ
サービスは「思いつき」から始まりません。業務では決まった流れで作られます。本コースの講座構成も、この流れそのものです。
各フェーズの問いと、人間とAIの分担
フェーズ 中心となる問い 人間の仕事 AIの仕事 企画 誰の何の課題を解くのか 課題を知り、決める 選択肢を出し、穴を突く 設計 画面・データ・処理をどう定義するか 業務の正しい形を確認 絵と定義を書き起こす 実装 どう動かすか 確認と判断 コードを書く 公開 どう届けるか 社内の了承を取る 作業手順を整える 運用 どう回し続けるか 要望を聞き、優先順位をつける 改善案を出し、実装する
本コースの講座と対応している
講座 相当するフェーズ 前提知識(本講座) 全体の地図を持つ AIと企画する 企画 (続刊の講座) 設計 → 実装 → 公開 → 運用
人間は「監督」、AIは「実行部隊」。 課題を一番よく知っているのは現場のあなたです。企画の判断と業務の正しさの確認は、最後まで人間の仕事です。
重要なのは、企画と設計に全体の時間の半分を使う こと。ここが詰まっていれば、実装はAIが圧倒的に速く進めます。逆に企画が曖昧なまま実装に入ると、作っては直しの繰り返しになります。本コースがまず企画から始めるのはこのためです。
走る例「備品申請」を3要素で分解する
ここまでの知識を、実際に走る例へ適用します。「月末の集計に半日」という課題を、3要素で分解してみましょう。これがこの先の企画の土台になります。
画面 — 3枚そろえば業務が回る
📋 申請フォーム
申請者が入力する画面。項目を埋めて送信するだけ。誰に頼むか迷わせないのが改善点。
📑 申請一覧
総務担当が全申請を見る画面。新着順・状況で絞り込み。メールの行方不明をなくす。
📊 集計表
月末の発注リスト。品目別個数・月別件数を自動算出。半日の手作業を数分に。
データ — 申請1件ぶんの記録
項目 型のイメージ なぜ必要か 申請日 日付 いつの申請か。月次集計の軸 品名 選択肢 自由記載にすると集計不能になるため 個数 数値 発注数の合算に使う 理由 短い文章 承認判断の材料 希望日 日付 発注タイミングの判断 状況 承認済み等 処理済み見落としを防ぐ
処理 — 裏方に書くルール
ルール 内容 入力チェック 個数は1以上、希望日は今日以降 登録 送信内容に日付と状況を付けて保存 一覧の並べ替え 新着順、状況による絞り込み 集計 月別・品目別の個数合計を自動計算
この分解を「サービスの正体が見えている証拠」として、企画の講座でそのまま転用します。
知らない用語はその場でAIに聞く
入門の学習では、用語の連続です。読書と違って、分からない語をそのままにしない のがコツです。チャットAIは「引き出しの多い先輩」として使えます。聞き方の型を2つ、このテーマの内容で示します。
フロントエンド、サーバー、データベースの違いを、【総務部の備品申請】← ここを自分の業務に書き換え を題材に、窓口・裏方・書類庫のたとえで説明してください。IT未経験の社会人に向け、専門用語は避けてください。
私は今、社内の【経費精算システム】← ここを観察したサービスに書き換え を観察しています。画面は申請入力・一覧・承認の3つで、入力項目は日付・金額・科目・摘要です。この裏で保存されていそうなデータと動いていそうな処理を、3要素(画面・処理・データ)に分けて予想してください。まず私の予想【月次で締め処理がある】← 自分の予想に書き換え が正しいかも確かめてください。
聞き方のNGとOK
Webサービスの作り方を教えて 備品申請を管理するサービスを作るとしたら、まず決めるべきことを3つ挙げて 広すぎると一般論が返る。目的を絞ると使える答えが返る
フロントエンドとは何ですか フロントエンドとは何か、備品申請サービスの例で、サーバーとの違いがわかるように教えて 「何に使いたいか」を添えると、噛み砕いた説明が返る
用語は*「業務の例」を添えて聞く* と、抽象的な定義ではなく使える理解が返ってきます。また、自分の予想を先に言ってから確かめてもらうと、受け身の読みから能動的な確認 に変わり、記憶に残ります。この2つの型は、この先のすべての講座で使います。
まとめ
このテーマで目指したのは、サービスの中身が見える目 です。以下が全部「はい」と言えるなら、次のテーマに進む準備はできています。
✓ できるようになったこと 確かめ方 ☑ WebページとWebサービスの違いを説明できる 「データが積もるかどうか」の違いを同僚に説明してみる ☑ クリックの裏の動き(依頼→処理→記録→返事)を追える いいねを押したときの流れを紙に書き出す ☑ どんなサービスも3要素に分解できる 使っている社内システムを画面・処理・データに分ける ☑ 開発が5フェーズで進むことを知っている AIと作るべきフェーズを順に言ってみる ☑ 備品申請を3要素に分解した P10の分解表を自分の業務課題で埋め直す
このテーマの核心 — 3つだけ
- サービス=続きけて動く課題解決。データが積もる点がページと違う
- 中身は3要素。画面・処理・データ。この3語でサービスの中身を語れる
- 観察が設計の材料。使っているサービスはすべて教材になる
この先 — この講座の続き(02〜05)
- 02 AI開発の全体像 — チャットAIとコーディングAIの役割分担
- 03 動くコードを読む — 書かずに構造を掴む練習
- 04 観察演習 — 身近なサービスを解剖し切る
- 05 データの基礎 — 記録の形をデザインする
🔧 続きのテーマを始める前の持ち物チェック
✓ 持ち物 確認ポイント ☑ 観察ワークシート(P8) 社内システム1件ぶんの5観点が埋まっている ☑ 備品申請の分解表(P10) 画面3枚・データ6項目・処理4ルールを自分の言葉で言える ☑ チャットAIの利用環境 無料プランでよいので、質問を1回投げて返事が返る状態
持ち物が揃っていれば、続きのテーマ(02〜05)をそのまま進められます。