このテーマのゴール
「作りたいもの」からではなく「解ける課題」から始める 前講座ではサービスの中身が見えるようになりました。この講座では、自分の業務の「困った」を3行メモで構造化し、AIとの対話で企画書まで育てます。企画が固まれば、残りの工程(設計・実装)はAIが圧倒的に速く進められます。この講座も、頭とブラウザだけで進みます。
期待・実際・差分の3行メモで「なんとなく困った」を構造化します。課題の正体は差分 です。 完成形を持ってこず、対話で穴を埋めます。AIを聞き役 に回らせ、突っ込ませる質問の型を身につけます。 最初の版(v1)に何を入れ、何を捨てるかを決めます。完了条件は述語 で書き、「月末集計が30分」まで落とします。
🎯 この講座の「走る例」 — 備品申請、企画書を書き切る
前講座の観察ワークシートと3要素分解表を材料に、総務部の備品申請を「人に使ってもらえるサービス」として企画します。あなたは自分の業務課題で同じ手順を並走させてください。講座終了時点で、自分の課題の企画書が1枚 できていることがゴールです。
このテーマの流れ
P テーマ 身につけること P3〜4 課題の言語化と見積もり 3行メモ、頻度×手間×影響のスコアリング P5〜8 使ってもらう設計とAI対話 2者の「めんどう」分析、育てる3原則、聞き役モード、4ターンの実演 P9〜10 スコープと完了条件 v1のIN/OUT判断、述語で書く4枠、NG→OK書き換え P11〜12 企画書の完成とまとめ 5章構成テンプレート、最終チェックリスト
課題を言語化する — 3行メモ
企画の最初の一歩は「アイデアを考えること」ではなく、課題を書き下ろすこと です。曖昧な「困った」は、次の3つの箱に分けると急に扱えるようになります。
🎯 期待 — あるべき姿
業務がうまく回っている状態を、結果として 書く。「〜できる」の形にすると、後でそのまま完了条件になる。
📷 実際 — 今の姿
今起こっている事実を、数字付きで 書く。「半日かかる」「3つの届け先にバラバラ」のように。
⚡ 差分 — ギャップ
期待と実際を比べたとき生まれる開き。これが課題の正体で、サービスで解くべき対象です。
走る例 — 備品申請を3行メモにする
🎯 期待 申請者は誰でも1分で申請を出せて、総務は月末30分で発注リストを作れる 📷 実際 申請は紙・メール・口頭の3経路でバラバラ。総務は月末に半日かけて手集計 ⚡ 差分 届け先が不定・集計が手作業・何が動いたか実態が見えない、の3つ
備品の管理がいい感じになってほしい 実際: 申請が3経路に分かれ、月末集計に半日。期待: 1経路で集計30分 「いい感じ」は状態ではない。事実と数字を書くと課題が立つ
課題の正体は 「差分」 です。期待と実際を並べた瞬間に「何を解けばいいか」が見え、期待の文は後続の完了条件の原材料 になります。まず3行、書いてみることがすべての始まりです。
課題の大きさを見積もる
3行メモをいくつか書けたら、どれから解くか を決めます。判断材料は3つの軸。ラフな5段階評価で構いません。数字にしないと「全部重要」のまま進めなくなります。
🔁 頻度(1〜5)
週に何回 起きるか。毎日なら5、月末のみなら1〜2。頻度が高い課題は小さな改善でも総量が大きい。
⏱ 手間(1〜5)
1回あたり の時間と手順の多さ。半日の手集計なら5、数分の迷いなら1〜2。
📈 影響(1〜5)
誰に・どれだけ 広がるか。予算計画など次の判断に波及するなら高くつける。
走る例 — 3つの差分にスコアを付ける
差分(課題) 頻度 手間 影響 スコア 読み取れること 届け先が不定で申請者が迷う 5 2 2 20 毎日発生。迷いをなくすだけで価値 月末の集計が手作業で半日 2 5 3 30 1回が重い。自動化の効果が大きい 実態が見えず予算計画が立たない 3 3 5 45 次の判断に波及。データ化の価値
私の業務課題をリストします。それぞれについて頻度・手間・影響 を5段階で評価し、掛け算したスコア順に並べ替えてください。評価の根拠を1行ずつ添えて、私の想定と違う場合は指摘してください。課題リスト: 【①届け先が不定 ②月末集計が半日 ③実態が見えない】← 3行メモの差分を貼る
スコアの目的は 正確さではなく「順番を決めること」 です。AIの評価と自分の感覚がずれたら、それは「自分が見落としている軸」か「AIの勘違い」のどちらか。ずれを確認するだけでも企画の精度は上がります。上位の課題から、サービスの主目的に据えましょう。
人に使ってもらうとは — 2者の「めんどう」を数える
社内サービスが使われなくなる原因のほとんどは、「今までのやり方の方が楽」 だからです。企画では、関わる全員の「めんどう」を両側から数えます。備品申請には2者の登場人物がいます。
🙋 申請者(各部署の社員)
今のめんどう サービスでどう変わるか 誰に言えばいいか迷う フォームのURLを開くだけ。届け先は1つ 様式がバラバラで記載に迷う 項目が決まっているので埋めるだけ 頼んだ伝え忘れで不安 一覧に反映されたか自分でも確認できる
🗂 総務担当(あなた)
今のめんどう サービスでどう変わるか メール・口頭を拾い集めて転記 申請は自動で一覧に並ぶ。転記ゼロ 月末に半日かけて手集計 品目別・月別の合計は自動表示 処理済み・未処理が混在 状況で絞り込み、見落としを防ぐ
落とし穴 — 片方だけ楽にすると、しわ寄せが反対側に来る
設計 申請者 総務担当 自由記述のメモ欄だけにする ◎ 楽(書き放題) ✕ 集計不能 品名はプルダウン選択にする △ 1手間増える ◎ 集計が自動化 品名の選択肢を10個に絞る ◎ 迷わない ◎ 集計が安定
自由度はどこかで誰かの仕事 になる。両者の仕事量を並べて見ると、削るべき自由度が見えてきます。
⚖️ 判断の物差し
- 使う人の操作回数 は増やしていないか
- 待ち時間 は短くなっているか
- 片方の楽さが反対側の仕事 になっていないか
3つとも「はい」の設計だけが、使われ続ける サービスになります。
企画の問いは「何を作るか」ではなく 「誰の、どのめんどうを、いくつ減らすか」 です。2者の表を埋めた時点で、あなたの企画は「機能のリスト」ではなく「人の仕事の変化」として語れるようになっています。
AIと企画を育てる — 3原則と「聞き役モード」
企画の相談相手としてのAIの使い方で、一番の失敗は「企画書を書いてもらうこと」から始めることです。AIは即座にそれっぽい文書を出しますが、中身は空っぽになりがちです。正攻法は、AIを壁打ち相手 にして企画を育てること。3つの原則で進めます。
①
完成形を持ってこない
「備品申請システムの企画書を書いて」は厳禁。まず課題だけ を渡し、選択肢を出させて比較する。案はAIの、選択は自分の仕事。
②
「わからない」を隠さない
決めていないことは「決めていない」と書く。AIは穴を突く のが得意。曖昧さを隠すと、後の工程で必ず崩れます。
③
決めるのは自分
AIの答えは選択肢の1つ。業務の正しさを最後に判定できるのは、現場を知る人間だけです。根拠を聞いてから決める。
✕ 即答モード(回避)
「いい企画をください」→ それっぽい文書が即座に返る。根拠のない機能リスト になり、後で必ず作り直しに。
◯ 壁打ちモード(推奨)
質問だけ続けさせる → 自分の言葉で答えを積み上げる。残ったものが本物。対話ログはそのまま企画書の素材に。
企画の質は「AIが書いた文書の見た目」ではなく、AIに突っ込ませた結果、まだ残っている案 で決まります。次のページのプロンプト1通で、AIは根掘り葉掘り聞いてくる相手に変わります。
聞き役モード — AIに質問だけで回してもらう
壁打ちモードを1通のプロンプトで始める方法と、実際に飛んでくる質問の例を見ていきます。
あなたは企画の壁打ち相手です。これから業務の課題を説明します。読んだあと、①私が説明していない前提(例: 誰が承認するか)②運用で壊れそうな箇所 ③考えられる別の解き方 を、質問形式で 指摘してください。私が「十分」と言うまで提案は出さず、質問のみ続けてください。\ 課題: 【3行メモを貼る: 期待・実際・差分】← ここを書き換え
壁打ちで実際に飛んでくる質問の例
AIが突く観点 典型的な質問(備品申請の場合) 承認と却下 「申請は誰が承認する決まりですか? 却下した場合、申請者にはどう連絡していますか?」 例外の扱い 「緊急の申請は今どう処理されていますか? フォーム外で起きたら記録に残りますか?」 運用の持続性 「総務担当が不在の月、集計は誰がやりますか? 属人化していませんか?」 既存の仕組み 「すでに使っている購入システムやメールの運用ルールとの、役割分担はどうなりますか?」
答えられない質問が返ってきたら — 3つの対処
📋 現場確認リストへ
事実を知っている人がいる質問(承認の決まり等)は、確認タスクとして控える。対話を止めずに次へ。
📝 「未定」と記録して先へ
まだ決められない質問は未定と書いて残す。隠すと後で崩れる。未定リストは設計前の宿題になる。
🤔 AIに選択肢を出させる
判断に迷う質問は、前提を3案比較 してもらう。比較を見てから決めるのが監督の仕事。
AIとの企画対話 — 走る例で4ターン
聞き役モードの実際の流れを、備品申請で追います。1ターン=「あなたの投入1回+AIの応答1回」。1ターン目の材料は前講座の観察ワークシート です。
聞き役モードのプロンプト+3行メモ(期待・実際・差分)を貼る 「承認は必要ですか?」「却下した場合、申請者への連絡は今どうしていますか?」— 質問が6つ返ってくる 「承認は総務の判断。却下したらメールで連絡している。記録は残っていない」 「却下理由が残らないなら、再申請のたびに最初から になりませんか? 理由の記録方法を3案比較しましょう」 「3案、運用手間と申請者の負荷も添えて比較して」 ①却下理由の自由記録 ②却下理由の選択式 ③却下時は対面で説明。表で比較 を提示される 「v1は②の選択式にする。理由は集計と再申請のバランス」 「了解。その前提でv1の範囲を整理します」と、対話の要点がまとめられた形 で返ってくる
💾 対話ログは捨てない
壁打ちの質問と回答は企画書の「なぜ」 そのもの。「なぜ選択式か」→「T3の比較で運用手間が最小だったから」。ログがあれば、上司への説明も明日の自分への説明もできます。
⏱ 1ターンの目安
投入3分+応答を読む5分ほど。4〜5ターンで骨格 が固まります。疲れたら日を跨いでもOK。
✅ 対話のゴール
AIを納得させることではなく、答えられない箇所を見つけること。答えられなかった質問リストが、次に現場確認すべきタスクです。
スコープを切る — v1に何を入れ、何を捨てるか
対話で企画が育ってきたら、次は切る 作業です。v1(最初の版)は「最小で価値が出る形」。全部盛りは、作る前からスケジュールを壊す最大の原因です。
IN — v1に入れる
- 申請フォーム(申請日・品名・個数・理由・希望日・状況の6項目)
- 申請一覧(新着順表示・状況による絞り込み)
- 集計表示(品目別個数・月別件数の自動算出)
完了条件に直結するもの だけを3つ。
OUT — v1に入れない
- 承認ワークフロー(多段階承認・却下理由の記録)
- ログインと権限管理
- 在庫・予約管理
- メール通知
運用で代替できるもの はv2以降へ。
入れる/入れないの判断基準
候補機能 INにする基準 OUTにする基準 申請フォーム 課題の核心。これが無いと始まらない — 申請一覧 転記ゼロの必須手段 — 集計表示 完了条件「30分」の直接的な道具 — 承認ワークフロー — 却下は運用で対応可能(対面+選択式理由)。入れると承認者・却下理由・再申請が絡み複雑化 ログイン権限 — 社内限定URLで運用開始できる。公開範囲の相談は公開フェーズで
⚠️ 落とし穴 — 承認フロー
「申請なら承認でしょ」と入れると一気に複雑化。運用で回るならv1では外す のが、小さなサービスの正解です。
📌 OUTは「やらない」ではない
OUTは*「v2以降でやる」* と明記。企画書に「やらないこと」を書くと、開発中の「これも入れよう」を止められる防御壁になります。
✅ 判断基準は1つ
「完了条件を達成できる最小の構成か」。備品申請ならフォーム・一覧・集計の3つで十分。足りないものは使い始めてから判断できます。
完了条件を述語で書く
「便利になる」「楽になる」は完了条件になりません。完了したかを誰でも判定できる文 に書き換えます。型は4枠 — 誰が・何を・どうすると・どうなる。
.at(0)
.at(1)
NG → OK — 曖昧語を述語に書き換える
集計が楽になる 総務担当が月末の発注リストを、品目別合計画面から30分以内で作れる 「楽」の程度を時間で判定可能に
申請しやすくなる 申請者がフォームの6項目を入力して送信すると、一覧に即時に反映される 「しやすい」を操作と結果で具体化
実態が見えるようになる 月別件数と品目別個数を、誰でもいつでも集計画面で確認できる 「見える」対象と手段を明示
🔍 曖昧語チェックの型
書いたらAIに渡して判定できない語 を探させる。「楽」「見える」「いい感じ」— 見つかったら4枠で書き直し。
📏 効果測定になる
「30分以内」は公開後に実際に測れる。完了条件がそのまま効果の証明になります。
✅ 両面のゴール
述語の完了条件は作る側のゴール であり使う側の効果の証明。曖昧な条件は「完成したと言えない」状態を生みます。
企画書を1枚にまとめる
ここまでの材料を、5章構成の1枚にまとめます。この1枚があれば、設計・実装の講座はこの通りに進むだけ になります。
章 項目 走る例での記入例 ① 解く課題(3行メモ) 期待: 申請1分・集計30分 / 実際: 3経路・手集計半日 / 差分: 届け先不定・手作業・実態不可視 ② ターゲットと変化 申請者: 迷いが消える / 総務: 転記ゼロ・集計自動。2者のめんどう表を添付 ③ v1の範囲(IN/OUT) IN: フォーム6項目・一覧・集計 / OUT: 承認フロー・ログイン・在庫・通知(v2以降) ④ 完了条件(述語) 総務担当が月末の発注リストを品目別合計から30分以内で作れる ほか2件 ⑤ 確かめ方 1ヶ月運用し、月末の所要時間を申請前後で比較して記録する
対話ログから仕上げる — 企画書化のプロンプト
以下は企画の壁打ちに使った対話ログです。この内容を、①解く課題(3行メモ)②ターゲットと変化 ③v1の範囲(IN/OUT)④完了条件(述語・4枠)⑤確かめ方 の5章構成の企画書にまとめてください。判定できない曖昧語が残っていたら、対応箇所を指摘 してください(勝手に埋めない)。対話ログ: 【T1〜T4の対話を貼る】
🧩 材料は既に揃っている
3行メモ(P3)・2者の表(P5)・対話ログ(P7)・IN/OUT(P8)・述語(P9)。新しい考えは不要。整理だけです。
🤖 AIの仕事と自分の仕事
構成化と曖昧語の指摘はAI。各章の正しさの最終判定 は自分。読んで「違う」と思う箇所は直す。
📤 この先の使い道
続編の設計ではこの企画書が仕様書の土台 に。上司への説明にも、この1枚で足りるはずです。
企画書の良し悪しはページ数ではなく、「これだけ見れば作れるか」 で決まります。5章それぞれに前のページの材料が1対1で対応している — これが「企画は思いつきではなく手順で作れる」ことの証明です。
まとめ
この講座で身につけたのは、課題から企画書までを1人で歩む手順 です。以下がすべて「はい」と言えるなら、あなたの企画は動き出せる状態にあります。
✓ できるようになったこと 確かめ方 ☑ 「困った」を3行メモで構造化できる 自分の課題を期待・実際・差分で書き出す ☑ 課題にスコアを付け、順番を決められる 複数の課題を頻度×手間×影響で順位付けする ☑ 2者の「めんどう」を両側から数えられる 申請者と総務、双方の変化の表を埋める ☑ AIを聞き役にして企画を育てられる 壁打ちプロンプトで4ターン対話する ☑ 範囲と完了条件を決め、企画書にまとめられる OUTに時期があり、完了条件が4枠の述語で書けている
このテーマの核心 — 3つだけ
- 課題の正体は差分。期待と実際を書き並べることが企画の始まり
- AIは書かせず、突っ込ませる。残った案だけが本物
- v1は最小で価値が出る形。OUTに「いつやるか」まで書く
この先 — この講座の続き(02〜05)
- 02 企画の説得 — 上司と関係部門の合意を取る
- 03 社内ルールとセキュリティ — 扱ってよいデータのラインを確認
- 04 走る例の完成版企画書 — 模範解答と突き合わせる
- 05 自分の課題で企画する演習 — あなたの企画を仕上げる
🏁 最終チェック — 企画書1枚を相手に
✓ 問い 合格の基準 ☑ 企画書を読んだ同僚に課題を説明できるか 3行メモの内容をそのまま話せば通じる ☑ v1を作り終えたか、どうやって証明するか言えるか 完了条件の4枠がそのまま測定方法になっている ☑ 作らない機能を、なぜ後回しにしたか説明できるか 対話ログに判断の根拠が残っている
3つとも「はい」なら、実装に入れる状態です。お疲れさまでした。